お城の病院から中庭を隔てたところに、病院付属の託児所がある。
おとぎ話に出てくるような、小さな建物。低めの天井に、子どもたちが背伸びすることなくのぞき込める高さの窓、おおよそ子どもと猫にしか通ることのできない細いトンネルは中二階に通じる唯一の通路となっている。
建物の背面に位置する小さな池には、昼食の残りのバゲットが投げ込まれるのをまつ魚たち。目の前に広がる森には、大樹にロープを渡して拵えたブランコ。さらに森の奥に目をこらせば、廃材をかき集めて出来上がった秘密基地がゆっくりと現れる。
お昼になれば、お城に昼食のワゴンを迎えに行くのも子どもたちの仕事。滞在者たちとの、準備されたものではない、ごく日常的なふれ合いがそこにはある。
「次に出る本の印税を、託児所に」
そう言って、託児所建設を援助したのは、精神分析家フランソワーズ・ドルトであった。
分析家としての主張と彼女自身の生き方とがぴたりと一致していて、美しい。託児所のあちらこちらの細部には、そんな彼女の魅力が宿っているように思える。