小さな頃から詩を暗唱する文化に育ったからか、フランスでは俳句に興味にもつ人は多い。
型や形式など決まり事を知らなくても、作品は味わえるものだ。
アトリエの参加者の中で創作意欲が高まり見せた頃、お城の病院で歌会が催された。
形にはまらないのはご愛敬。くすっと笑えるものから、心の奥に潜む泉に触れるような作品まで、滞在者たちのいくつかをご紹介。
L'air gigote
Un hérisson sous les feuilles
Quel après-midi!
「空気は動いている
葉っぱの下のハリネズミ
なんて午後だろう!」
お城の病院では、昼食の後にちいさな集会が開かれる。
この季節は屋外で行われるのが常だ。涼を求め、みな木陰に集う。
けれどもしばらくすれば太陽は位置を変え、灼熱の空気が襲う。
そんな時、ふと脇に視線を投げれば、葉っぱの影に一匹のハリネズミ!
この隣人との出会いによって、茹だる午後は陽気な午後へと一変したのかもしれない。
Un chat s'amuse
La pluie tombe
Demain est déjà là
「猫が遊んでいる。
雨が降っている。
明日がもう来ている」
猫が遊び、雨が降るというどこか幻想的な情景が、夏の長い夜をあかした人物によって切り取られたことが、それまでと同じリズムでさらりと明かされる。
この詩にはっとさせられるのは、普段は心の奥に沈んでいる感覚、誰れとも共有しえない静かな夜が「ただそこにある」(Il y a )というあの驚異に触れるからだろうか。
「猫」と「天気」——ごく身近でいてしかし決して近づくことのない顔をもつふたつの要素も、だからこそ座りがいいのかもしれない。
朝の光りが、夜の海からワタシを切り出し、我に返す。
自己の不確かさと確かさそして無限への感覚。
猫はそしらぬ顔で遊び続けている。
D'Après Balthus