「今年の夏はまだ、彼が側にいる気がしていたわ」
病院スタッフのひとりはそう言ったあと、滞在者の車椅子を押しながらゆるやかなスロープをぬけ、中庭へと向かった。
もう何人かは準備をはじめている。
「オリヴィエを偲んで、オリーブの木(olivier)を。」
春にみんなでそう決めてから、雨が続くこの季節を待ったのは、植樹に適した時期であったという理由だけだろうか。
雨まじりの風は冷たく、空は灰色だ。中庭には、冷たい土が擦れる音が響ている。
いつの間にか人が集まってきて、静かにその作業を見守る輪ができている。
穴の中央にオリーブの木を据え、柔らかな土で覆う。
偲ぶ者たちの手で如雨露から注がれる水は、それぞれの涙のようだ。
そのときだった。さっきまでの灰色をふき消すように、太陽が一面を照らした。
光を受けて、影が並ぶ。中央には、Olivierの影がまっすぐに伸びている。
その細く長い線は、あの頃のままだった。