前に少し触れたように、哲学者フェリックス・ガタリは、一時期をこのお城の病院で過ごした。
当時小学校生であった娘が、後にそこでの生活を一冊の小さな本に綴っている。
子どもの視点から切り取られた様々な断片は、缶にいっぱいに詰まった様々な形のクッキーを取り出すようで愉しい。いびつである分だけ、優しさとおかしみにみちた欠片。
彼女の「最初の小説」とされる、この回想録をすこしだけ紐解いてみたい。
ショフ(病院の送迎車)での登校。
シトロエンのドゥー・シュボー(2CV)、運転者は、病院の滞在者がつとめる。そのうち一番長かったのは、アレクサンドルだ。
時速20キロになると、アレクサンドルはアクセルから足を離すのだった。
セカンドギアに入れたことはなかった様に思う。
ワイン畑と木立の間をエンジンを唸らせながらの穏やかな「旅行」だった。
掌をもう一方の手で掻く癖があるので、ハンドルからしょっちゅう手を離れる。
どのくらいの間隔でそれをやるのか、よく数えていたものだ。
でも、一度も遅刻したことはなかった。