お城の病院の敷地内にある託児所については、すでにすこし前に触れたが(フランソワーズ・ドルトの贈り物)、ここから時を遡って、この託児所の前史を紐解いてみたい。
精神分析家フランソワーズ・ドルトの支援によりこの託児所が建つよりも前、敷地内の別の場所に託児所が設けられていた。ちょうどフランスの哲学者フェリックス・ガタリが、文字通り活動の拠点としていた部屋にあたるという。(ガタリについてここでは詳しく触れないが、先回のブログ「本の上で結ばれる記憶」に登場したジル・ドゥルーズとの共作でその名を知る人も多いかもしれない。なお彼はその生涯をこのお城の病院で閉じている。)
「組織の中でスタッフを固定化してはいけない」というのが、ガタリの基本的な考え方であった。固定化することで、疎外が生まれたり、固定化するところに権力が集まりやすくなるためだ。
例えば、患者の担当にも定期的な変更が加えられる。新たに託児所が建つとき、当然ようにこの原則が託児所のスタッフにも適用されようとしていた。ここに待ったをかけたのが、フランソワーズ・ドルトであった。
--それほど頻繁にスタッフを変えていれば、「子どもは自分の居場所の検討がつかなくなる」(フランソワーズ・ドルト)。
人や建物、そのような子どもたちを取り巻く環境に、子どもたちが自身の「存在の目印」のようなもの(points de repères)をそっと書き込むことのできるような「柔らかさ」があれば、素敵だと思う。
このちいさな「しるし」たちが佇む場所を、子ども時代と呼ぶのかもしれない。