水曜日、ギーが死んだ。
読書会に参加しては、かつての「哲学徒」の横顔を魅せていた彼が、その長い人生を閉じた。
ドゥルーズのもとで頭角を出し始めた若かりし頃の彼のことを「カリスマ的で、輝いていた」と、頬に朱を浮かべて話すのは、それから半世紀以上にわたり彼を支え続けた妻だ。
喪失よりも、昨日恋に落ちたばかりの少女のような瑞々しさに溢れた彼女の瞳が印象的だった。病院ではなく自宅で過ごしたという最期の数ヶ月は、きっと蜜のような時間であったに違いない。
ひとりの人間の光と影とを、分け隔てることなく最期まで受け止めた彼女が紡ぐ語りは、今日も、力強く軽やかだ。アルコールに溺れたかつての壮絶な日々も、医師の処方箋に加筆を繰り返した悪事も、彼女の言葉を通して、風のなかを愉しげに舞い散っていくような気がした。