年末年始のお祝いシーズンになると、お城の病院も普段とは違う特別な雰囲気に包まれる。
暖色のテーブルクロスで御粧ししたテーブルの上には、どこにしまってあったのか、普段は見ないワイングラスやカラトリーが所狭しと並ぶ。
それぞれの事情で家に帰ることのなかった滞在者、そこに少数ではあるがその友人・家族も混じった賑やかな席に、嬉しい招待を受ける。
ちょうど向かい合わせになったのは、悪戯顔で自らを「お城の子ども」と称する滞在者。
その言葉通り、彼は子ども時代の大半をこの病院で過ごした。
天使のような柔らかな髪が美しい彼も、今はもう80歳を超えている。
食事に時間をかけることで知られるフランスだが、彼のゆったりとしたペースはこの範疇ではなかった。
停止しているようでありながら、しかし同時に、何物にも決して侵されることのない約束された速度。
時間を忘れてしまったかのような緩慢さのなかに、ある種の崇高が宿っている。
他のテーブルはすっかり片づき、どこからともなく始まったダンスも佳境を入る頃、
前菜・メンイ・チーズ・デザートとひとつも飛ばすことのない完璧な食事が終了する。
ゆっくりとではあるがしかし決して立ち止まることのない速度で、歳を重ねたからだろうか、最後にとっておいたプレゼントの包みを開くとき、溢れる笑顔は少年のままだった。
そしてこの目の前の「少年」こそ、時速20キロ、2CVのハンドルを握っていたアレクサンドルだと知るのは、それから少し後のことだった。